実技試験は「知識の試験」ではなく「75分で処理する試験」です。実技1・実技2ともに、地上・高層天気図、エマグラム、衛星画像、レーダーなど10枚前後の資料を読み、穴埋め・記述(15〜60字)・作図(前線・等値線・トラフ)・計算を15〜20問こなします。知識があっても時間内に終わらない受験生が多く、実技で落ちる人の答案は「後半が白紙」です。この記事では、時間配分、設問タイプ別の解き方、記述の型、作図のコツ、計算問題を、元気象庁職員の予報士の目線でまとめました。計算の練習ツールも置いています。

実技の採点は減点方式です。「正しいことを書いたか」より「問われたことに、指定の言葉と字数で答えたか」で決まります。知識を増やすより、答案の型を固定するほうが点になります。
- 時間配分:大問1問あたり「資料読み5分+設問70分」。取れる問題から取り、作図と長い記述は後回しにしない(配点が大きい)
- 記述の型:「〜のため、〜が〜する」。問われた要素(前線・気温・風・湿数・渦度)を必ず本文の言葉で入れる
- 作図は毎回描く:前線は等相当温位線の集中帯の暖気側、トラフは等高度線の曲率が最大の所、シアーラインは風向の急変
- 計算は単位換算(ノット・km/h・m/s)、距離と速度、気圧と高度、温位の4種類でほぼ全部
- 合格基準は原則70%だが、直近11回は60〜69%に調整。65%を確実に取る答案を目指す
実技試験の構成と時間配分
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験時間 | 実技1:13:10〜14:25、実技2:14:55〜16:10(各75分) |
| 資料 | 地上天気図(実況・予想)、高層天気図(850/700/500/300hPa)、エマグラム、衛星画像、レーダー、アメダス、予想図(FXFE等)、時系列図など10枚前後 |
| 設問数 | 大問1つの中に小問15〜20(穴埋め・選択・記述・作図・計算) |
| 題材 | 温帯低気圧の発達、前線の通過、台風、梅雨末期の大雨、南岸低気圧と雪、冬型の大雪、寒冷渦と雷雨など |
| 合格基準 | 実技1と2の総得点の70%以上(調整で60〜69%) |
75分は「資料をひととおり眺める5分、設問に65分、見直し5分」が基本です。設問は前半が穴埋め(実況の読み取り)、後半が記述と作図(予想と理由)という順で並び、後半のほうが配点が大きいのに時間切れで白紙にする人が多い。前半の穴埋めは1問1分以内で切り上げ、分からないものは飛ばして後半へ進む勇気が必要です。
| 経過時間 | やること | コツ |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 資料を全部めくって、日時・気圧配置・注目する現象を把握 | 問題文の冒頭「〜の低気圧が〜へ進む」を読み、資料の日時をメモ |
| 5〜30分 | 前半の穴埋め・選択(実況の読み取り) | 1問1分。迷ったら飛ばす。数値は資料の等値線から補間して読む |
| 30〜60分 | 後半の記述・作図・計算 | 記述は骨子(主語・原因・結果)を決めてから書く。作図は先に鉛筆で薄く |
| 60〜70分 | 飛ばした問題に戻る | 飛ばした穴埋めは前後の設問がヒントになっていることが多い |
| 70〜75分 | 見直し | 字数超過・単位の抜け・「〜のため」の抜けを確認 |
設問タイプ別の解き方
穴埋め(実況の読み取り)
天気図の数値を読ませる問題は「等値線の補間」と「単位」がすべてです。500hPaの高度は5,700m前後で等高度線は60m間隔、850hPaの気温は3℃間隔、風は矢羽根(長い羽根10ノット、短い5ノット、旗50ノット)。「風向は16方位で」「気温は整数で」など問題文の指定を守らないと0点になります。読み取りに時間をかけすぎないこと。
記述(15〜60字)|「型」を決めて書く
記述は「問われた要素を本文の言葉で入れる」ことがすべてです。型は次の3つで足ります。
| 型 | 例(字数の目安) | 入れるべき要素 |
|---|---|---|
| 原因→結果 | 「上空のトラフの接近により、低気圧の前面で上昇流が強まるため(30字)」 | 何が(トラフ・寒気・暖湿気)、どう(接近・流入・強化)、その結果(上昇流・発達・降水) |
| 状態の説明 | 「850hPaの相当温位が336K以上の暖湿気が南から流入している(30字)」 | 気圧面・要素・数値・方向。数値を必ず入れる |
| 予想と根拠 | 「寒冷前線の通過に伴い、風向が南西から北西に変わり気温が下がる(35字)」 | 現象・時刻・要素の変化。「〜に伴い」で根拠を示す |
- 字数は8割以上埋める。「30字以内」なら24〜30字
- 問題文で使われた言葉(「暖湿気」「収束」「シアーライン」)をそのまま使う。言い換えると減点
- 数値を問われていなくても、資料から読める数値を1つ入れると具体性が上がる
- 「〜と考えられる」「〜だろう」は不要。断定で書く
- 模範解答を写経して「よく出る表現」を20個覚えると、記述の速度が倍になる
作図(前線・トラフ・等値線)
| 作図 | 手がかり | 注意 |
|---|---|---|
| 寒冷前線・温暖前線 | 850hPaの等相当温位線の集中帯の暖気側の縁、地上の風向のシアー、気温の急変 | 低気圧中心から描き始める。前線記号の向き(進行方向側に三角・半円) |
| トラフ(気圧の谷) | 500hPaの等高度線の曲率が最大(低圧側に最も張り出した)所を結ぶ | 破線で描く。リッジは実線ではなく問題の指示に従う |
| シアーライン | 風向が急に変わる点を結ぶ | 前線との違いは温度差の有無 |
| 等値線(等圧線・等温線) | 指定間隔で、観測値の間を補間 | 交わらない、途中で消えない、閉じるか図の端まで |
作図は「正解に近いか」を面積や位置で採点されるので、多少ずれても描けば部分点があります。白紙が一番損です。前線解析の考え方は天気図の読み方で図解しています。
計算問題|4種類だけ
電卓が使えないので、出るのは筆算で終わる計算だけです。ノットとkm/h(×1.852)、速度×時間=距離(緯度1度≒111km)、気圧差と高度(地上付近1hPa≒8m、850hPa≒1,500m、700hPa≒3,000m、500hPa≒5,500m)、温位(1000hPaなら気温そのまま)。下のツールで感覚をつかんでください。
実技で出る計算の練習ツール(答えを隠して筆算→ここで確認)
1. ノット・m/s・km/h の換算
2. 移動速度と距離(緯度1度=約111km)
3. 気圧と高度(1hPa≒8m・850hPa≒1,500m)
4. 温位 θ=T×(1000/p)^0.286
5. 持ち上げ凝結高度 LCL≒125×(T−Td) m
6. 気温減率と安定度
1ノット=1.852km/h≒0.514m/s。緯度1度=60海里≒111km。LCLの式は近似。安定度の判定は乾燥断熱減率9.8℃/km・湿潤断熱減率約5℃/kmとの比較です。
資料の読み方|どこを見るか
| 資料 | 見る所 | 典型的な設問 |
|---|---|---|
| 地上天気図(ASAS) | 低気圧の位置・中心気圧・移動、前線、等圧線の混み具合、悪天域 | 低気圧の位置と気圧、24時間の移動速度と方向 |
| 850hPa(AUPQ78) | 気温(0℃・−6℃線)、相当温位(336K以上の暖湿気)、風、湿数3℃以下の湿域 | 暖湿気の流入、前線の位置、雨か雪か |
| 700hPa | 鉛直流(上昇流域は負)、湿数 | 上昇流の位置と降水域の対応 |
| 500hPa(AUPQ35) | 高度・気温(−30℃・−36℃の寒気)、トラフ・リッジ、渦度(正渦度移流) | トラフの位置、寒気の南下、低気圧の発達 |
| 300hPa | ジェット気流の位置と風速 | ジェットの出口・入口と低気圧の発達 |
| エマグラム | 湿った層、逆転層、安定度、SSI | 雨雪判別、対流不安定の判定 → エマグラム問題の解き方 |
| 衛星画像 | 雲の種類(赤外の白さ=高さ、可視の白さ=厚さ)、バルジ、ドライスロット | 雲域と前線の対応 → 衛星画像の見方 |
| レーダー・アメダス | 降水の強度と分布、風向の変化、気温の変化 | 前線通過の時刻、シアーラインの位置 |
気象予報士試験の定番テキスト
独学なら「一般気象学(小倉義光)」で土台を作り、「らくらく突破 気象予報士かんたん合格テキスト」で学科の穴を埋め、過去問は最低5回分を3周するのが王道です。実技は解説つきの過去問集が必須です。
図解|時間配分・前線解析・計算のコツ
実技で差がつく3つ「時間配分」「前線の作図」「計算」を図にしました。各パターン(温帯低気圧・南岸低気圧・台風・梅雨・冬型・寒冷渦)の解き方は、順次公開する深掘り記事で扱います。
計算例題で確認|筆算で解く4種
- ① 約10ノット
- ② 約15ノット
- ③ 約20ノット
- ④ 約30ノット
解答・解説を見る
緯度1°≒111kmなので3°≒333km。333km÷12h≒28km/h。1ノット=1.852km/hなので 28÷1.852≒15ノット。緯度差で距離を出す→時間で割る→ノットに直す、の3ステップです。
- ① 約54km/h・約15m/s
- ② 約64km/h・約18m/s
- ③ 約74km/h・約21m/s
- ④ 約84km/h・約23m/s
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40×1.852=74.1km/h、40×0.514≒20.6m/s。「ノット×2で少し引く」とm/sの概算になります(40kt→約20m/s)。
- ① 約288K
- ② 約295K
- ③ 約302K
- ④ 約310K
解答・解説を見る
15℃=288.15K。(1000/850)^0.286≒1.048 なので 288.15×1.048≒301.9K≒302K。℃のまま掛けると大きく外れるので、必ず絶対温度に直します。
- ① 約1,150m
- ② 約1,300m
- ③ 約1,450m
- ④ 約1,600m
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層厚 Δz=(R·T/g)·ln(p1/p2)=(287×273.15/9.8)×0.163≒1,300m。層厚は層の平均気温に比例するので、雨雪判別で「1000〜850hPaの層厚1,300m前後が境目」とされるのは、この層の平均気温が0℃前後にあたるからです。
- ① 絶対不安定
- ② 条件付き不安定
- ③ 絶対安定
- ④ 判断できない
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減率は12℃/1,500m=0.8℃/100m。乾燥断熱減率1.0℃/100mより小さく、湿潤断熱減率約0.5℃/100mより大きいので条件付き不安定です。記述で理由を書くなら「気温減率が湿潤断熱減率より大きく乾燥断熱減率より小さいため」。
- ① 55ノット
- ② 60ノット
- ③ 65ノット
- ④ 70ノット
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旗50+長い羽根10+短い羽根5=65ノット。m/sに直すなら約33m/s。矢羽根は風が吹いてくる向きに立つので、風向も同時に読み取ります。
- 記述問題の書き方と添削例20(09/29公開)
- パターン別①温帯低気圧の発達(10/16公開)
- パターン別②南岸低気圧と雨雪判別(10/17公開)
- パターン別③台風(10/18公開)
- パターン別④梅雨前線・線状降水帯(10/19公開)
- パターン別⑤冬型・JPCZ・日本海側の大雪(10/20公開)
- パターン別⑥寒冷渦・上層トラフ(10/21公開)
過去問の使い方|3周で75分に収める
- 1周目(時間無制限):解説を読みながら解く。模範解答の表現をノートに写す。1題3時間かかってよい
- 2周目(90分):時間を計る。飛ばす判断の練習。作図は必ず描く
- 3周目(75分):本番と同じ時刻(13時台)に解く。答案を模範解答と比べて「減点される表現」を消す
- 実況で復習:出題日の実際の天気図・エマグラムをエマグラム表示ツールと気象庁の過去天気図で確認。「なぜその設問が作られたか」が見える
過去問は気象業務支援センターで直近の問題が無料公開されています。10回分(5年分)を3周すると、出題パターン(低気圧の発達・前線通過・台風・大雪・大雨)がすべて出そろいます。
独学が不安なら通信講座という手も
実技の記述は「自分の答案のどこが減点されるか」が独学では見えにくい部分です。添削つきの講座は費用がかかりますが、実技に絞って使う人が多いです。まずは無料の資料請求や体験で相性を見るのがおすすめです。
実技で落ちる人の共通点と対処
| 落ちる理由 | 症状 | 対処 |
|---|---|---|
| 時間切れ | 後半の記述・作図が白紙 | 前半の穴埋めを1問1分で切る。後半から解く練習も有効 |
| 記述が問いに答えていない | 知っていることを書いて減点 | 設問の「何について」「何字で」に下線を引き、要素を箇条書きしてから文にする |
| 資料の読み間違い | 日時や気圧面を取り違える | 各資料の右上の日時・気圧面を最初に確認して丸をつける |
| 作図をあきらめる | 前線・トラフが未記入 | 正解でなくても描けば部分点。等相当温位の集中帯を探す手順を体で覚える |
| 計算ミス | 単位の換算ミス | ノット×1.852、緯度1度111kmを暗記。計算は途中式を残す |
実技試験 よくある質問
実技試験の合格基準は何%ですか?
原則は総得点の70%以上ですが、難易度により調整され、直近11回では60〜69%でした。65%を確実に取れる答案を目指すのが現実的です。
実技試験の時間配分はどうすればいいですか?
資料の把握5分、設問65分、見直し5分が基本です。前半の穴埋めは1問1分で切り上げ、配点の大きい後半の記述・作図に時間を残してください。
記述問題はどう書けばいいですか?
「〜のため、〜が〜する」の型で、問われた要素を問題文の言葉で入れます。字数は8割以上埋め、断定で書き、資料から読める数値を1つ入れると具体性が上がります。
前線はどうやって描きますか?
850hPaの等相当温位線の集中帯の暖気側の縁を基本に、地上の風向のシアーと気温の急変を合わせて描きます。多少ずれても描けば部分点があります。
実技試験に電卓は使えますか?
使えません。出る計算はノットの換算、速度と距離、気圧と高度、温位の4種類で、筆算で終わります。
過去問は何回分やればいいですか?
10回分(5年分)を3周が目安です。1周目は時間無制限、2周目は90分、3周目は本番と同じ75分で解きます。
- 実技は75分の処理の試験。前半1問1分、後半に時間を残す
- 記述は「〜のため、〜が〜する」の型で、問題文の言葉と数値を入れる
- 作図は白紙が最大の損。等相当温位の集中帯・等高度線の曲率で描く
- 計算は4種類。ノット1.852、緯度1度111km、1hPa8m、温位
- 過去問10回分を3周し、出題日の実況で復習する
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出典:気象業務支援センター「試験案内」「過去の試験問題」、気象庁「天気図の見方」「高層天気図」。時間配分と記述の型は当サイトの見立てです。


