エマグラム(状態曲線)は実技試験の定番で、学科一般の熱力学でも毎回1問は絡みます。問われるのは「湿った層はどこか」「安定か不安定か」「持ち上げ凝結高度・自由対流高度はどこか」「雨か雪か」「逆転層の種類は」の5つに集約できます。この記事は試験で出る形に絞った解き方の手順です。図の基本(軸・線の意味・補助線)と実データの事例は、当サイトのエマグラムの見方と表示ツールに詳しくまとめているので、初めての人はそちらを先に読んでください。過去問の日付を入れると、その日の実物のエマグラムが出せます。

実技のエマグラム問題は、作図が正確かどうかより「どの線をどこまで追うか」の手順を知っているかで決まります。手順を固定すれば、1問3分で解けるようになります。
- 見る順番:①湿った層(気温と露点の差=湿数3℃以下)→ ②持ち上げ(乾燥断熱→LCL→湿潤断熱)→ ③気温線との交点(LFC・EL)→ ④逆転層 → ⑤SSI
- 雨雪判別は850hPa −6℃と地上の湿球温度(1℃以下で雪)が目安
- 逆転層は「露点が逆転層の上で急に下がる=沈降性」「湿ったまま=前線性」「地表付近だけ=接地」で見分ける
- SSIは「850hPaの空気を500hPaまで持ち上げた温度」と「500hPaの実際の気温」の差。負なら不安定
手順1:湿った層を探す|湿数3℃以下
気温(実線)と露点(破線)の差を湿数(T−Td)といい、試験では「湿数3℃以下を湿域」とすることが多いです。エマグラムで2本の線が近づいている高さの範囲を読み、「地上から700hPaまで湿っている」「500hPaより上は乾燥」のように答えます。湿った層の厚さがそのまま雲の厚さで、地上から300hPaまで湿っていれば全層湿潤=大雨型、850hPaより下だけなら層雲・霧、上層だけなら巻雲です。
| 湿った層 | 雲・現象 | 典型的な状況 |
|---|---|---|
| 地上〜300hPa | 全層で雲。長時間の雨 | 前線・低気圧の暖域、線状降水帯 |
| 地上〜850hPa | 層雲・霧・小雨 | 冬型の日本海側、暖気移流の霧 |
| 700〜500hPa | 中層雲(高層雲・高積雲) | 温暖前線の前面 |
| 400hPaより上 | 巻雲 | 前線の遠く前面、ジェットの南側 |
| 全層で乾燥 | 快晴 | 高気圧の中心付近、沈降場 |
手順2:持ち上げる|LCL・LFC・ELの求め方
- 地上の気温から乾燥断熱線に沿って上げる(1℃/100mで下がる線)
- 地上の露点から等飽和混合比線に沿って上げる(露点はほぼ一定)
- 2本が交わる高さが持ち上げ凝結高度(LCL)=雲底。近似式は LCL≒125×(気温−露点) m
- LCLから上は湿潤断熱線に沿って上げる(約0.5℃/100m)
- 持ち上げた線が気温線より右(暖かい側)に出る高さが自由対流高度(LFC)。ここから上は自力で上昇
- 再び気温線と交わる高さが平衡高度(EL)=積乱雲の雲頂の目安
- LFCからELまでで持ち上げ線が気温線の右にある面積がCAPE(対流有効位置エネルギー)。LFCより下で左にある面積がCIN
試験では「LCLを図示せよ」「LFCの気圧を答えよ」のように問われます。乾燥断熱線は茶色、湿潤断熱線は緑、等飽和混合比線は紫の点線という色分けは問題冊子でも同じことが多いので、線の種類を先に確認します。作図は薄い鉛筆で線をなぞり、交点に印をつけてから気圧を読みます。
手順3:安定か不安定か|3つの判定
| 判定 | 方法 | 答え方 |
|---|---|---|
| 気温減率で判定 | 実際の気温線の傾きを、乾燥断熱線(約10℃/km)・湿潤断熱線(約5℃/km)と比べる | 乾燥断熱より急=絶対不安定、湿潤断熱より緩やか=絶対安定、間=条件付き不安定 |
| 持ち上げで判定 | 手順2の持ち上げ線が気温線の右に出るか(LFCがあるか) | LFCがあり、CAPEが大きい=不安定。CINが大きい=ふたがあり簡単には対流しない |
| 相当温位で判定 | 相当温位(θe)が高さとともに減っている層があるか | 減っていれば対流不安定(下が湿って上が乾いている)。層全体が持ち上がると激しく崩れる |
学科では「条件付き不安定の気温減率の範囲」、実技では「この層は対流不安定である理由を述べよ」(答:相当温位が高度とともに減少しているから)という形で出ます。相当温位の判定はエマグラム表示ツールの温位図タブで、実データの傾きを見ておくと迷いません。
手順4:逆転層の種類を見分ける
| 逆転層 | 見分け方 | 成因・意味 |
|---|---|---|
| 接地逆転層 | 地表付近のごく薄い層で気温が上に向かって上がる | 放射冷却。霧・冷え込み。日中に解消 |
| 沈降性逆転層 | 逆転層の上で露点が急に下がる(乾燥) | 高気圧の下降流。上空に乾いた空気。晴天が続く。ふたになる |
| 前線性逆転層 | 逆転層の上でも湿ったまま | 前線面。下に寒気、上に暖気。温暖前線の前面など |
| 移流逆転層 | 暖かい空気が冷たい地表面に乗る | 海霧、暖気移流時の霧 |
手順5:SSIとK指数|計算の手順
SSI(ショワルター安定指数)は「850hPaの空気を500hPaまで持ち上げたときの温度」を「500hPaの実際の気温」から引いた値です。負なら不安定、−3℃以下で雷雨の可能性が高いとされます。手順は、850hPaの気温から乾燥断熱線でLCLまで、そこから湿潤断熱線で500hPaまで上げ、その温度を読むだけです。K指数は (T850−T500)+Td850−(T700−Td700) で、40以上で雷雨がほぼ確実、30以上で可能性あり。試験では図から読み取った値で計算させます。下の計算機に過去問の数値を入れて答え合わせができます。
安定指数の計算機(SSI・K指数・雨雪の目安)|過去問の数値を入れて答え合わせに
850hPa
℃ ℃700hPa
℃ ℃500hPa
℃地上(雨雪の目安用)
℃ %雨か雪か|エマグラムと850hPaで判別する
雨雪判別は実技の頻出です。目安は3つ。850hPaの気温が−6℃以下なら平地で雪(−3〜−6℃は境目、関東の南岸低気圧では−3℃でも雪になることがある)、地上の湿球温度が1℃以下なら雪(湿度が低いほど気温が高くても雪になる)、そしてエマグラムで0℃の高さ(融解層)が地上に近いほど雪。「気温3℃・湿度50%」は雪、「気温3℃・湿度95%」は雨、というのが湿球温度の考え方です。地上の観測値からの判定は雪が降らない県ランキングや三大豪雪地帯の記事のデータで感覚がつかめます。
| 指標 | 雪の目安 | 雨の目安 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 850hPa気温 | −6℃以下 | −3℃以上 | 関東の南岸低気圧は−3℃でも雪の例が多い |
| 地上の湿球温度 | 1℃以下 | 2℃以上 | 乾いていると気温4℃でも雪 |
| 0℃高度 | 地上〜300m | 600m以上 | 融解層の厚さで雨に変わる |
| 1000〜850hPaの層厚 | 1,290m以下 | 1,300m以上 | 層厚は層の平均気温に比例 |
気象予報士試験の定番テキスト
独学なら「一般気象学(小倉義光)」で土台を作り、「らくらく突破 気象予報士かんたん合格テキスト」で学科の穴を埋め、過去問は最低5回分を3周するのが王道です。実技は解説つきの過去問集が必須です。
図解|持ち上げ・逆転層・雨雪判別を3枚で
手順1〜5と雨雪判別で「どの線をどこまで追うか」を、模式図で確認しておきます。実物の観測データで練習するならエマグラム表示ツール、南岸低気圧の雨雪判別は深掘り記事(順次公開)で扱います。
計算例題で確認|SSI・K指数・湿数・湿球温度
- ① 約−4
- ② 約0
- ③ 約+4
- ④ 約+8
解答・解説を見る
850hPaの空気塊(10℃・露点4℃)を乾燥断熱線でLCLまで、湿潤断熱線で500hPaまで持ち上げると約−20℃になります。SSI=500hPaの実際の気温−持ち上げた温度=−16−(−20)=約+4。正なので安定、雷雨の可能性は低い、という判定です。図から読む場合は±1程度の幅で出ます。
解答・解説を見る
850hPaの空気塊を500hPaまで持ち上げると約−3.5℃。SSI=−8−(−3.5)≒−4.5。K指数=(T850−T500)+Td850−(T700−Td700)=(20+8)+16−(8−2)=38。K指数は「下層が暖湿で、中層が湿っているほど大きい」指数で、700hPaの湿数(8−2=6℃)が小さいほど雷雨になりやすいことも読み取れます。記述なら「SSIが負で対流不安定な成層」「K指数38で雷雨の可能性が高い」のように数値を添えます。
- ① 含まれる(湿数4℃)
- ② 含まれない(湿数4℃)
- ③ 含まれる(湿数2℃)
- ④ 含まれない(湿数8℃)
解答・解説を見る
湿数=気温−露点=−2−(−6)=4℃。3℃より大きいので湿域には含まれません。負の数の引き算で符号を間違えるのが典型的なミスです。
- ① 雨(湿球温度 約2℃)
- ② 雪(湿球温度 約−1℃)
- ③ 雨(湿球温度 約1.5℃)
- ④ 判断できない
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気温2℃・湿度60%の湿球温度は約−1℃です。乾いた空気では蒸発で雪片が冷やされるため、気温が正でも雪のまま落ちてきます。同じ2℃でも湿度95%なら湿球温度は約1.7℃で雨寄り。「気温」ではなく「湿球温度」で判断するのが試験の考え方です。
- ① 約500m
- ② 約800m
- ③ 約1,000m
- ④ 約1,500m
解答・解説を見る
125×(25−17)=125×8=1,000m。露点との差(湿数)が大きいほど雲底は高くなります。エマグラムでは乾燥断熱線と等飽和混合比線の交点として読みます。
- パターン別②南岸低気圧と雨雪判別(10/17公開)
- パターン別④梅雨前線・線状降水帯(10/19公開)
- パターン別⑥寒冷渦・上層トラフ(10/21公開)
- 大気の熱力学(温位・断熱・安定度)(10/02公開)
- 降水過程(雲と雨のでき方)(10/03公開)
典型パターンと「よく問われること」
| パターン | エマグラムの形 | 問われること |
|---|---|---|
| 大雨(線状降水帯) | 地上から300hPaまで気温と露点が重なる。CAPEは小さい | 全層湿潤の理由、可降水量の多さ |
| 雷雨(対流不安定) | 下層は湿り、700〜500hPaで露点が大きく離れる。CAPE大・SSI負 | 対流不安定である理由(相当温位の減少)、LFC・ELの高さ |
| 冬型 | 850hPaより下だけ湿り、上は乾燥。湿った層の厚さ=雪雲の高さ | 日本海側で雪になる理由、湿った層の上端の気圧 |
| 南岸低気圧の雪 | 地上付近に薄い寒気、その上に暖湿気(前線性逆転) | 雨か雪かの判別(850hPa気温・地上湿球温度) |
| 高気圧 | 沈降性逆転層。逆転層の上で乾燥 | 逆転層の種類と成因、晴天が続く理由 |
| 放射霧 | 接地逆転層+地上付近で気温と露点が一致 | 霧の成因と解消の見込み |
勉強法|過去問の日付を実データで確認する
- 過去問のエマグラム問題を解く(時間無制限)
- エマグラム表示ツールで同じ日時・地点(館野・福岡・輪島など)を表示し、問題の図と見比べる
- ツールが計算したLCL・LFC・EL・SSI・K指数と、自分の作図・計算を突き合わせる
- 時刻スライダーで前後の観測をたどり、「なぜこの時刻が出題されたか」を考える
- 解説の表現(「下層の湿潤な空気」「上空の乾燥した空気」「対流不安定」)を記述用に写す
実技全体の解き方と時間配分は実技試験の解き方、天気図の読み方は天気図の読み方、高層天気図は高層天気図の見方へ。学科の熱力学(温位・安定度)の復習は学科一般の頻出分野で。
エマグラム問題 よくある質問
エマグラムで「湿っている」はどう判断しますか?
気温と露点の差(湿数)で判断します。試験では湿数3℃以下を湿域とすることが多く、2本の線が近い高さの範囲を読み取って答えます。
持ち上げ凝結高度(LCL)はどう求めますか?
地上の気温から乾燥断熱線に沿って上げた線と、地上の露点から等飽和混合比線に沿って上げた線の交点です。近似式はLCL≒125×(気温−露点)mです。
SSIはどう計算しますか?
850hPaの空気を乾燥断熱線でLCLまで、湿潤断熱線で500hPaまで持ち上げた温度を、500hPaの実際の気温から引きます。負なら不安定、−3℃以下で雷雨の可能性が高いとされます。
沈降性逆転層と前線性逆転層の見分け方は?
逆転層の上で露点が急に下がって乾燥していれば沈降性、湿ったままなら前線性です。地表付近のごく薄い逆転は接地逆転層です。
雨か雪かはエマグラムのどこで判断しますか?
850hPaの気温(−6℃以下で雪の目安)、地上の湿球温度(1℃以下で雪)、0℃の高さ(融解層)の3つで判断します。関東の南岸低気圧では850hPaが−3℃でも雪になることがあります。
過去問のエマグラムの実物は見られますか?
当サイトのエマグラム表示ツールで、1905年ごろから2〜3日前までの世界約1,400地点の実測を表示できます。過去問の日時と地点を入力すると同じ日の観測が出せます。
- 見る順番は 湿った層→持ち上げ→交点→逆転層→SSI
- LCLは乾燥断熱線と等飽和混合比線の交点。LFCから上は自力で上昇、ELが雲頂
- 安定度は気温減率・持ち上げ・相当温位の3つで判定
- 逆転層は「上で露点が下がるか」で沈降性と前線性を区別
- 雨雪判別は850hPa −6℃と地上湿球温度1℃
- 過去問の日付を実データで確認して理解に変える
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出典:気象業務支援センター「過去の試験問題」、気象庁「高層気象観測」、小倉義光「一般気象学」。計算機の湿潤断熱過程はBolton(1980)に基づく近似で、教材の図から読む値とは小数点以下で差が出ることがあります。


