子吉川(秋田・由利本荘)が氾濫|1時間17ミリの雨でなぜレベル5?矢島136.5ミリ・20時間以上降り続いた雨を37地点で検証【県内6地点で10月の24時間雨量が観測史上1位】

気象

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こんにちは!気象予報士ののぶやんです。

2026年10月21日、秋田県では未明から夜まで雨が降り続きました。報道によると、21日午後8時すぎ、秋田県由利本荘市を流れる子吉川(こよしがわ)に「レベル5 氾濫特別警報」が発表されました。子吉川の明法(みょうほう)観測所で氾濫が発生する水位を超え、由利本荘市の森子(もりこ)地区で川の水があふれる越水が確認されたということです。

ところが、アメダスの記録を見ると少し不思議なことに気づきます。子吉川の上流にある矢島の1時間雨量は最大でも17.0mm。秋田県内37地点を見ても、1時間20mmを超えたのは桧木内の20.5mmだけでした。1時間20mm前後は気象庁の用語で「強い雨」の入り口で、「バケツをひっくり返したような」激しい雨(30mm以上)には一度も届いていません。それでも、川はレベル5まで上がりました。

答えは「量」と「時間」と「広さ」です。矢島の24時間降水量は137.0mm、0.5mm以上の雨が22時間連続し、笹子129.5mm、東由利110.5mmと合わせて、子吉川の流域の4地点平均でも約116mm(下流の本荘でも86.0mm)の雨が降りました。流域に降った水の量をざっくり計算すると東京ドーム約111杯分。この記事では、元気象庁職員の気象予報士として、秋田県のアメダス37地点の1時間ごとの記録を使い、「強くない雨が、なぜレベル5の氾濫になったのか」を検証します。

この記事の結論(30秒で読める版)
  • 10月21日夜、秋田県由利本荘市の子吉川に「レベル5 氾濫特別警報」。明法観測所で氾濫発生水位を超え、森子地区で越水が確認されたと報じられた。22日午前2時20分にレベル2「氾濫注意報」へ切り替え、その後22日朝に氾濫注意報も解除されたと報じられています。支流の河原で倒れていた高齢の男性が死亡したとの報道もあります
  • 雨の強さは1時間最大17.0mm(矢島)と「やや強い雨」(1時間10〜20mm)の範囲。県内37地点でも最大20.5mm(桧木内)で、30mm以上の激しい雨はゼロ
  • それでも氾濫したのは、雨が20時間以上降り続き、矢島136.5mm・笹子129.5mm・東由利110.5mmと流域平均でも100mm超(4地点平均約116mm)が降ったから。1時間17mmの約8倍の量が積み上がった
  • 流域平均を流域4地点で近似すると約115.6mm。子吉川の流域面積(約1,190km²)にかけると約1.4億m³=東京ドーム約111杯分(概算)
  • 流域の雨は21日14時に総量の半分、19時に9割に達し、その後の20時すぎに氾濫特別警報。雨のピークから数時間遅れて下流の水位が上がる「時間差」が見える
  • 矢島の今回の雨は10月の平年1か月分(217.0mm)の約63%、日降水量の歴代1位(183.0mm)の約75%

▶ 秋田県37地点の雨をツールで見る ▶ なぜ「強くない雨」で氾濫したのか(図解)へ ▶ 子吉川はどこ?

秋田県アメダス37地点:今回の大雨ビューア

地点を選ぶと、10月21日1時〜22日7時の1時間ごとの雨量(棒グラフ)と、降り始めからの累積(赤い線)を表示します。上のカードは、今回の総雨量・最大1時間雨量・最大24時間降水量・雨が続いた時間(1時間0.5mm以上の時間数)と、その地点の10月の平年降水量(1か月分)に対する割合、日降水量の観測史上1位に対する割合です。平年値と歴代1位は当サイトの地点ページがある地点のみ表示します。下の表の行を押しても地点を切り替えられます。

秋田県アメダス37地点:今回の大雨ビューア
いまの雨:読み込み中…
1時間雨量(棒)と累積雨量(線)
棒の色:薄い青=10mm未満、青=10mm以上、紺=20mm以上。棒にカーソルを合わせると時間帯と雨量が出ます。
37地点ランキング(今回の総雨量順・行を押すと切り替え)
データ:気象庁アメダス(10月21日1時〜22日7時の前1時間降水量の合計、速報値)。平年値・歴代1位は当サイトの地点ページ(気象庁の平年値1991〜2020年・観測史上1位の値)。雄和は21日1時の値が欠測のため0mmとして合計しています。「いまの雨」はページを開いたときに気象庁のアメダスを読み込みます。

ツールで地点を切り替えてみると、上位の地点ほど「棒は低いのに、赤い線(累積)はまっすぐ上がり続ける」形になっているのがわかります。これが今回の雨の特徴です。県全体の雨の傾向は今日、日本一雨が降った場所はどこ?や今日のアメダスランキングでも、毎日の記録として確認できます。

図解:1時間17ミリの雨で、なぜレベル5の氾濫に?

まず、今回の雨を「強さ」で見てみます。気象庁の用語では、1時間に10〜20mmが「やや強い雨」、20〜30mmが「強い雨」、30〜50mmが「激しい雨」です(雨の量と体感の目安は降水量1mm・5mm・10mm・30mm・50mmはどれくらいの雨?で詳しく解説しています)。今回、子吉川の上流にある矢島と笹子の最大1時間雨量はどちらも17.0mm、東由利は11.0mm、下流の本荘は13.5mm。どの地点も「やや強い雨」の範囲です。

秋田県のアメダス37地点すべてで見ても、最大1時間雨量が20mm以上だったのは桧木内(仙北市)の20.5mmの1地点だけ、30mm以上は0地点でした。記録的短時間大雨情報のような「短時間に猛烈な雨」とは、まったく違うタイプの大雨です。

では何が違ったのか。下の図は、子吉川の流域を概略で描いたものです。鳥海山を源とする子吉川は、上流の山あいで雨を集め、支川の水も合わせながら由利本荘市の市街地を通って日本海に注ぎます。上流の各地点に書き込んだ数字が、今回の総雨量(21日1時〜22日7時の1時間雨量の合計)です。

子吉川の流域と今回の雨量(概略図) ↑北 日本海 緑の範囲=流域(雨が子吉川に集まる範囲・概略)約1,190km² 鳥海山 矢島 136.5mm 笹子 129.5mm 東由利 110.5mm 由利本荘市街(本荘 86.0mm) 上流に広く降った雨が川に集まり、 遅れて下流の水位を押し上げる
図1:子吉川流域の概略図。アメダス地点はおおよその緯度・経度の位置関係で配置していますが、川の形・支川の位置・流域の範囲は説明のための概略です(明法観測所・森子地区の位置は省略)。雨量は気象庁アメダスの10月21日1時〜22日7時の1時間雨量の合計(当サイト集計)。流域面積は国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所の資料による値(約)。

ポイント1:雨は「強さ」より「量」。1時間17mmの約8倍が積み上がった

矢島の今回の総雨量136.5mmは、最大1時間雨量17.0mmの約8.0倍です。1時間10mm以上の雨が降ったのは、雨が降った22時間のうち5時間だけで、残りは1時間0.5〜8mm程度の「ふつうの雨」でした。しかし、それが21日の未明から夜まで、ほとんど途切れずに続きました。1時間0.5mm以上の雨が続いた時間は、矢島で22時間連続(21日1時ごろ〜23時ごろ)、笹子で20時間連続、東由利で21時間連続です。

仮に「強い雨」の下限である1時間20mmで矢島の総雨量を降らせようとすると、約6.8時間かかります。つまり今回は、「強い雨が7時間近く続いた」のと同じ量の雨が、もっと弱い雨で1日がかりで降ったことになります。体感としては「ずっと降っているけれど、ものすごく強いわけではない」雨だったはずで、危険を感じにくいタイプの大雨だったといえます。

ポイント2:「点」ではなく「面」で降った

短時間の強い雨は、積乱雲の下の狭い範囲に集中するのがふつうです。今回は違いました。子吉川の流域にあるアメダス4地点(矢島・笹子・東由利・本荘)はすべて86mm以上で、上流の3地点(矢島・笹子・東由利)の平均は125.5mm。秋田県全体でも37地点中31地点で50mm以上、7地点で100mm以上を観測しました。雨の量がそろって多かった、つまり「面」で降ったことが、大きな川である子吉川の水位を押し上げた主な理由と考えられます。

流域平均雨量を流域4地点(矢島・笹子・東由利・本荘)の平均で近似すると約115.6mm。これに子吉川の流域面積(約1,190km²)をかけると、流域に降った水の量は約1億3,800万m³、約1.4億m³になります。東京ドーム(約124万m³)に換算すると約111杯分です。もちろん、降った雨がすべて川に流れ込むわけではなく、地面にしみこんだり、時間をかけて流れ出たりする分もあります。また4地点の平均で流域全体を代表させるのは大まかな近似です。それでも「1日でこれだけの水が流域に降った」という目安にはなります。

ポイント3:雨のピークから「時間差」で下流の水位が上がる

下の図は、流域4地点の平均雨量を1時間ごとに積み上げたものです。流域平均の累積雨量は、21日14時に今回の総量の半分に達し、19時には9割に達しました。雨が最も強まったのは14〜17時(4地点平均で1時間9〜10mm台)。そして、子吉川に氾濫特別警報が出たのは20時すぎと報じられています。

流域4地点(矢島・笹子・東由利・本荘)平均の雨と累積 0 0 3 30 6 60 9 90 12 120 1時 4時 7時 10時 13時 16時 19時 22時 20時すぎ 氾濫特別警報 14時 総量の半分 1時間雨量(mm) 21日の時刻(その時刻までの1時間) 赤線:累積雨量(右目盛り、mm)
図2:子吉川流域にあるアメダス4地点の平均雨量(棒)と累積(赤線)。21日1時〜22日0時。気象庁アメダスから当サイト集計。氾濫特別警報の時刻は報道による。

雨が最も強かった時間帯と、川があふれた時間帯の間には数時間のずれがあります。山に降った雨は、斜面をつたって沢に集まり、支川に集まり、本川に集まりながら下流へ流れていくため、雨のピークより遅れて下流の水位がピークを迎えるのです。大きな川ほど、そして流域が広いほど、この時間差は大きくなります。

これは、私たちの行動にとって大事なことを意味します。「雨が弱まってきたから、もう大丈夫」ではないということです。21日の夜、矢島の雨は20〜21時の1時間には1.0mmまで弱まっていましたが、子吉川の氾濫特別警報はその前後に出ています。雨がやんだあと・小降りになったあとこそ川の水位が最も高い、というのはよくあることです(小康状態の天気とは?「雨がやんだ後」に川へ行ってはいけない理由)。

「短時間の強雨型」と「長時間の“ふつうの雨”型」

大雨には大きく分けて2つのタイプがあります。下の図で比べてみましょう。

大雨の2つのタイプ(イメージ) A 短時間の強雨型 1時間50mm前後の雨が2〜3時間 ・積乱雲が狭い範囲に集中 ・道路の冠水、中小河川、土砂災害 ・危険が急に来る(分〜1時間の勝負) ・例:記録的短時間大雨情報が出る雨 B 長時間の“ふつうの雨”型(今回) 矢島:最大17mm、22時間で136.5mm ・広い範囲で同じように降る ・大きな川の増水・氾濫、土砂災害 ・危険が遅れて来る(数時間後に下流) ・「強くない」ので油断しやすい
図3:大雨の2つのタイプ。Aはイメージ(架空の例)、Bは矢島の実際の1時間雨量(10月21日1時〜22日0時、気象庁アメダス)。棒の高さのスケールはA・B共通。

Aの「短時間の強雨型」は、夏の夕立や線状降水帯のように、1時間に50mm、80mmといった雨が狭い範囲に集中するタイプです。危険が急に来るので、線状降水帯の直前予測や記録的短時間大雨情報が重要になります。

Bの「長時間型」が今回です。1時間の雨は強くなくても、低気圧や前線に向かって湿った空気が流れ込み続けると、雨雲が次々に同じような場所へかかり、半日〜1日で100mmを超える雨になります。広い範囲で降るため、流域面積の大きい川(一級河川)ほど影響を受けやすいのが特徴です。2つのタイプは、注意すべき場所も、危険が来るタイミングも違います。「1時間の雨量が少ないから大丈夫」と考えず、降り始めからの合計(積算雨量)と、川の情報をセットで見ることが大切です。

台風が遠くにあっても前線の雨が長引くケースは、「台風が前線を刺激する」とは?でもデータで紹介しています。なお、同じ21日は東京(30.3℃)や大阪(31.2℃)など各地で真夏日となり、季節外れの暑さにもなりました(10月下旬の真夏日はどれくらい珍しい?)。

データで検証:秋田県で雨が多かった上位10地点

秋田県のアメダス37地点について、10月21日1時〜22日7時の1時間雨量を合計し、多い順に並べました。10月平年比は、その地点の10月1か月分の平年降水量(1991〜2020年)に対する割合、歴代1位は日降水量の観測史上1位の記録です(どちらも当サイトの地点ページに掲載している地点のみ)。

順位地点(市町村)総雨量(mm)最大1時間(mm)10月平年比日降水量の歴代1位
1矢島(由利本荘市)136.517.0(14〜15時)63%183.0mm(2011年6月24日)
2笹子(由利本荘市)129.517.0(15〜16時)——
3桧木内(仙北市)119.520.5(13〜14時)——
4田沢湖(仙北市)119.016.5(14〜15時)66%231.0mm(2007年9月17日)
5田沢湖高原(仙北市)111.018.0(14〜15時)——
6東由利(由利本荘市)110.511.0(5〜6時)57%189.5mm(2024年7月24日)
7鎧畑(仙北市)102.513.5(14〜15時)——
8角館(仙北市)99.09.5(14〜15時)58%243.0mm(2023年7月15日)
9比立内(北秋田市)96.013.0(15〜16時)——
10大曲(大仙市)96.012.0(6〜7時)61%184.0mm(2017年7月22日)
表1:秋田県のアメダスで今回の総雨量が多かった上位10地点(10月21日1時〜22日7時の前1時間降水量の合計、気象庁アメダスの速報値から当サイト集計)。比立内・大曲・横手は同じ96.0mmで同順位(表は10行までのため横手は省略)。薄い赤は子吉川流域の地点。平年値と歴代1位は気象庁の値(当サイトの地点ページより)。「—」は当サイトに地点ページがない地点。

上位10地点のうち、1位矢島・2位笹子・6位東由利の3地点が子吉川の流域(由利本荘市)にあります。もう一つの雨の中心は、仙北市の田沢湖・桧木内・鎧畑の周辺でした。県内で唯一1時間20mmを超えた桧木内(20.5mm)を除けば、上位10地点の最大1時間雨量はいずれも9.5〜18.0mmにおさまっています。

注目したいのは「10月平年比」の列です。矢島の10月の平年降水量は217.0mm。今回の136.5mmは、その約63%にあたります。田沢湖66%、大曲61%、角館58%、東由利57%と、10月1か月分の雨の6割前後が、ほぼ1日で降った地点が並びます。各地点の月別の平年値は、矢島の気候・東由利の気候・本荘の気候・田沢湖の気候・角館の気候・大曲の気候の地点ページで確認できます。

一方、「日降水量の歴代1位」と比べると、矢島は約75%、東由利は約58%で、記録を塗りかえるほどではありません。矢島の日降水量の歴代1位は2011年6月24日の183.0mm、1時間降水量の歴代1位は1998年8月7日の58mmです。今回の最大1時間雨量17.0mmは、その約3割にすぎません。「記録的な強さ」ではないのに氾濫したことが、数字からもはっきりわかります。

ただし、10月に限ってみると話は別です。報道によると、21日午後9時までに由利本荘市の笹子・矢島など県内6地点で、24時間降水量が10月の観測史上最大になりました。矢島の10月の平年降水量は1か月で217.0mm。その6割以上が1日で降ったわけですから、季節としてはかなり異例の雨だったといえます。全国の雨の記録と比べたい方は【歴代】10分間・1時間・日降水量ランキングもどうぞ。

矢島の1時間ごとの雨(10月21日)

矢島の1時間雨量を時間順に並べると、今回の雨の形がよくわかります(時刻は「その時刻までの1時間」)。

  • 未明〜朝(3時〜7時):1時間5〜11mmの雨が続き、7時までに35.5mm。6時の11.0mmが朝のピーク
  • 朝〜昼すぎ(8時〜14時):1時間1〜6.5mmとやや弱まるが、途切れずに降り続く。14時までに62.5mm
  • 午後〜夕方(15時〜18時):15時に今回最大の17.0mm、16時11.0mm、17時13.5mm、18時11.0mmと、1時間10mm以上が4時間続く。18時までに115.0mm
  • 夜(19時〜23時):7.0mm、4.5mm、1.0mm、6.0mm、3.0mmと弱まりながら続き、23時までに136.5mm(24時間降水量としては23時の137.0mmが最大)。日付が変わるころにやんだ

朝の雨で地面が湿り、昼の弱い雨でも川へ水が流れ込み続けていたところへ、夕方の「やや強い雨」が4時間続いた――という流れです。最初から17mmの雨が降っていたら、地面がまだ水を吸い込めた分、川の増え方は違ったかもしれません。同じ1時間17mmでも、それまでに何mm降っていたかで意味がまったく変わるのが、長時間型の大雨の怖さです。過去のある日の天気や雨量は過去の天気検索で、気象庁のデータの調べ方は気象庁「過去の気象データ検索」の使い方で解説しています。

子吉川はどこ?読み方は「こよしがわ」

子吉川(こよしがわ)は、秋田県の南西部、由利本荘市を流れる一級河川です。鳥海山(標高約2,236m)を源とし、由利本荘市の矢島・由利などを流れ、市街地(本荘)を通って日本海に注ぎます。国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所の資料では、幹川の流路延長は約61km、流域面積は約1,190km²とされています。上流の矢島の年降水量は平年で約2,251mmと、雨や雪の多い地域です。

  • 源流:鳥海山(秋田県と山形県の県境)
  • 流れる市:由利本荘市(矢島・鳥海・由利・東由利・本荘など)
  • 河口:由利本荘市の市街地の西で日本海へ
  • 規模:幹川流路延長 約61km、流域面積 約1,190km²(国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所の資料による)
  • 今回の主な地点:明法観測所(由利本荘市、氾濫発生水位を超過)、森子地区(越水を確認)、石沢川(支川、氾濫発生と報道)

報道によると、氾濫発生水位を超えたのは由利本荘市にある子吉川の「明法(みょうほう)観測所」、越水が確認されたのは由利本荘市の「森子(もりこ)地区」で、支川の石沢川でも氾濫が発生しました。由利本荘市は市内の一部(約450世帯)に警戒レベル5「緊急安全確保」を発令しました。

流域の雨を見るアメダスは、市街地より上流側の矢島(由利本荘市矢島町)・笹子(由利本荘市鳥海町、標高223m)・東由利(由利本荘市東由利)と、下流の市街地にある本荘です(位置関係は図1の概略を参照)。今回、上流ほど雨が多く(矢島136.5mm、笹子129.5mm)、下流の本荘(86.0mm)は少なめでした。下流の市街地で「それほど降っていない」と感じても、上流で多く降っていれば川は増水します。自分のいる場所の雨ではなく、上流の雨で川は決まる、と覚えておいてください。

秋田県全体の気候の特徴は秋田県の気候データ、県庁所在地の秋田市の気候、県南の横手の気候、由利本荘市の南隣のにかほ市の気候もあわせてどうぞ。由利本荘市の地盤や地震の記録は由利本荘市の地震リスクにまとめています。

「氾濫特別警報」とは?新しいレベル5の意味

2026年5月29日から、気象庁の防災気象情報は「レベル」と名前がそろった新しい体系に変わりました。大雨や川の情報は、レベル5「特別警報」/レベル4「危険警報」/レベル3「警報」/レベル2「注意報」という4段階で発表されます。川の情報(国と都道府県が気象庁と共同で発表する洪水予報)では、それぞれ次の名前になります。

レベル河川の情報川の状況とるべき行動
レベル5氾濫特別警報氾濫が発生命の危険。ただちに身の安全を確保
レベル4氾濫危険警報いつ氾濫してもおかしくない危険な場所から全員避難
レベル3氾濫警報氾濫危険水位に達する見込みなど高齢者など避難に時間がかかる人は避難
レベル2氾濫注意報氾濫注意水位に達するなど避難行動の確認
表2:河川の洪水予報の新しいレベルと名前(2026年5月29日から)。川の状況・行動は概要で、正確な発表基準は河川ごとに定められています。出典:気象庁「防災気象情報の改善(新しい防災気象情報)」をもとに当サイト作成。

氾濫特別警報(レベル5)は、川の水があふれる「氾濫」がすでに発生した段階で出される情報で、以前の「氾濫発生情報」にあたります。「これから危なくなる」という予告ではなく、すでに災害が起きている可能性が高いことを知らせる情報です。この段階で避難場所へ向かうのはかえって危険な場合もあり、自宅の2階以上など、少しでも安全な場所で命を守る行動(緊急安全確保)をとることが求められます。なお、由利本荘市が発令した「緊急安全確保」は、市町村が出す避難情報のうち警戒レベル5にあたるものです。

本当に大切なのはその手前です。レベル4「氾濫危険警報」までに避難を終えるのが原則です。新しいレベルの全体像や、旧名称との違いはレベル4大雨危険警報とは?新しい警報のレベル早見表で、注意報・警報・特別警報の基本的な違いは注意報・警報・特別警報の違いで解説しています。気象予報士試験レベルで警報の制度を深く知りたい方は学科専門「警報・注意報・気象災害と防災情報」もどうぞ。

「大雨特別警報」とは別物

ここで混乱しやすいのが、「大雨特別警報」と「氾濫特別警報」は別の情報だということです。大雨特別警報は、気象庁が「数十年に一度」の大雨のおそれがあるときに市町村ごとに発表するもので、雨量や土壌の水分量などの指数から判断されます。一方、氾濫特別警報は、国や県が管理する特定の川(洪水予報河川)について、その川の水位をもとに発表されます。

つまり、今回のように1時間の雨はそれほど強くなく、雨量の記録も「数十年に一度」ほどではなくても、川の水位が氾濫のラインを超えればレベル5の氾濫特別警報が出ることがあります。雨の情報だけを見ていると、川の危険を見落とすおそれがあります。洪水の危険度はキキクルの見方で紹介している「洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)」で、川の場所ごとに色で確認できます。

レベル2「氾濫注意報」に下がっても油断しない

子吉川は22日午前2時20分にレベル2「氾濫注意報」へ切り替えられたと報じられています。レベルが下がったのは、水位が氾濫危険水位などの基準を下回ったことを意味しますが、すぐに安全になるわけではありません。

  • 水位はまだ高い:レベル2は「氾濫注意水位」に関係する段階で、平常時よりかなり水位が高い状態です
  • 堤防や斜面が水を含んでいる:長時間水につかった堤防や、雨を吸った山の斜面は弱くなっていることがあります
  • 浸水した場所はすぐには水が引かない:低い土地や田畑、道路には水が残り、見えない段差や側溝のふたが外れていることもあります
  • 次の雨で再び上がりやすい:地面が水を含んでいるため、少しの雨でも川に流れ込みやすい状態です

避難指示や緊急安全確保の解除は市町村の判断です。家へ戻るタイミングは、由利本荘市からの情報を確認してください。

秋田県の10月の雨・10月21日の天気を、データで見る

都道府県ごとに、10月の雨の多さを比べられるツールです。秋田県が全国の中でどのくらいの位置にあるかがわかります。

秋田で10月21日はどんな天気になりやすいのか、58年分の記録から見られるツールです。今回のように1日中雨が降る日がどのくらいあるかを確かめてみてください。10月21日の全国的な傾向は10月21日の天気の傾向、当日の全国のまとめは2026年10月21日の天気まとめにあります。

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全国の1時間降水量の観測史上ベスト10です。日本の記録的な「強い雨」と比べると、今回の1時間17mmがいかに「強さでは目立たない雨」だったかがわかります。

歴代1時間降水量ランキング トップ10(観測史上1位の値)
順位地点(都道府県・市町村)記録観測日偏差値
1位香取(千葉県・香取市)153.0mm1999年10月27日83.9
1位長浦岳(長崎県)153.0mm1982年7月23日83.9
3位多良間(沖縄県)152.0mm1988年4月28日83.5
4位甲佐(熊本県・甲佐町)150.0mm2016年6月21日82.6
4位清水(高知県・土佐清水市)150.0mm1944年10月17日82.6
6位下関(新潟県・関川村)149.0mm2022年8月4日82.2
6位室戸岬(高知県・室戸市)149.0mm2006年11月26日82.2
8位前原(福岡県・糸島市)147.0mm1991年9月14日81.4
9位上市(富山県・上市)146.5mm2024年8月25日81.2
9位岡崎(愛知県・岡崎市)146.5mm2008年8月29日81.2

全国の1時間降水量の記録は100mmを大きく超えます。それに比べて今回の17mmは数分の1以下ですが、それでも川はあふれました。大雨の危険は「1時間の強さ」だけでは測れない、ということをぜひ覚えておいてください。

雨がやんだあとに気をつけること

子吉川流域のアメダス4地点では、22日1時から7時までの1時間雨量はいずれも0mmで、雨はいったんやんでいます(流域のアメダスは22日1時以降0mm)。ただ、川や地面の状態はすぐには元に戻りません。片付けや確認に出る前に、次の点に気をつけてください。

増水した川・用水路に近づかない

雨がやんでも、上流から流れてくる水で川の水位はしばらく高いままです。子吉川の水位は国土交通省の「川の防災情報」で観測所ごとに確認できます。濁った水は流れが速く、深さもわかりません。川や用水路の様子を見に行かないことが鉄則です。川の様子は、全国ライブカメラ実況モニターや、子吉川の明法水位観測所などのカメラを掲載している矢島の地点ページのライブカメラで、家の中から確認できます。雨雲や川の危険度をまとめて見るなら全国実況モニターが便利です。

浸水した場所の片付けは安全第一で

  • 水が引いたあとも、側溝やマンホールのふたが外れていることがあります。長靴より、ひもで締められる靴のほうが安全です
  • 泥水には雑菌が含まれることがあるため、手袋・マスクを着用し、けがをしたら早めに手当てを
  • 電気製品や車が水につかった場合、乾いたように見えても漏電・発火のおそれがあります。すぐに通電・エンジン始動をしない
  • 片付けは複数人で、こまめに休憩と水分補給を

自宅や職場の浸水の危険を事前に知っておくことも大切です。ハザードマップの見方で、浸水の深さや浸水が続く時間の読み方を解説しています。

台風30号の動向にも注意

気象庁の22日15時45分の発表によると、台風30号は22日15時に沖縄の南にあって中心気圧925hPa。予報では、23日15時に与那国島の南約80km、24日15時に与那国島の北約280kmへ進み、その後は東シナ海を北上して、26日15時には西日本(998hPa)に達する見込みです。

進路や勢力にはまだ幅があり、秋田県にどのような影響が出るかは今の段階では言えません。ただ、台風や、台風から変わった低気圧が日本海へ進むと、東北地方でも雨が降る可能性があります。今回の雨で地盤が緩み、川の水位も平常に戻りきっていない地域では、ふだんより少ない雨でも災害につながるおそれがあります。今週末にかけては最新の台風情報と気象情報をこまめに確認してください。台風30号の詳しい予想は台風30号は九州に来る?週末の雨や台風30号は先島諸島にいつ最接近?で解説しています。気圧の変化は今日の気圧の変化でも見られます。

なお、暗くなってからの避難はとても危険です(夜の大雨については大雨が夜中に多いのは本当?)。今回も、子吉川の氾濫特別警報は夜8時すぎでした。「明るいうちに、早めに」を合言葉にしてください。

よくある質問

Q. 子吉川はどこにありますか?

秋田県の南西部、由利本荘市を流れる一級河川です。鳥海山を源流とし、由利本荘市の矢島・由利などを北へ流れ、市街地(本荘)を通って日本海に注ぎます。国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所の資料では、幹川流路延長は約61km、流域面積は約1,190km²とされています。

Q. 子吉川の読み方は?

「こよしがわ」と読みます。今回氾濫発生水位を超えたと報じられた明法観測所は「みょうほう」、越水が確認された森子地区は「もりこ」と読みます。

Q. 氾濫特別警報とは何ですか?

2026年5月29日から始まった新しい防災気象情報で、河川の洪水予報のうち最も高いレベル5の情報です。川の氾濫が発生した段階で発表され、以前の「氾濫発生情報」にあたります。すでに災害が起きている可能性が高く、ただちに命を守る行動が必要です。気象庁の「大雨特別警報」とは別の情報です。

Q. 今回、何ミリの雨が降りましたか?

気象庁アメダスの10月21日1時〜22日7時の1時間雨量を合計すると、子吉川上流の矢島で136.5mm(24時間降水量の最大は137.0mm)、笹子で129.5mm、東由利で110.5mm、下流の本荘で86.0mmでした(当サイト集計)。矢島の10月の平年降水量217.0mmの約63%にあたります。

Q. 1時間の雨は強くなかったのに、なぜ氾濫したのですか?

雨が20時間以上降り続き、流域の平均で100mmを超える雨(流域4地点平均で約116mm)が降ったためです。矢島の最大1時間雨量は17.0mmでしたが、総雨量はその約8倍になりました。流域4地点の平均(約115.6mm)に流域面積をかけると、流域に降った水は約1.4億m³(東京ドーム約111杯分、概算)で、この水が時間をかけて下流に集まり、水位を押し上げました。

Q. 雨のピークと氾濫の時刻はずれていましたか?

ずれていました。流域4地点の平均で雨が最も強かったのは21日14〜17時で、流域の累積雨量は14時に総量の半分、19時に9割に達しました。氾濫特別警報は20時すぎと報じられています。上流に降った雨が下流に集まるまで時間がかかるため、雨が弱まってからも水位は上がり続けることがあります。

Q. 今後の雨は大丈夫ですか?

子吉川流域のアメダスでは22日1時以降、雨は観測されていません(22日7時まで)。ただし台風30号が週末にかけて東シナ海を北上し、26日には西日本へ進む予報(22日15時45分発表)で、その後は東北地方でも雨が降る可能性があります。地盤が緩んでいる地域では、少ない雨でも注意が必要です。最新の気象情報を確認してください。

Q. 子吉川のライブカメラはありますか?

当サイトの矢島の地点ページに、子吉川明法水位観測所・二十六木水位観測所・河口など、由利本荘市内のライブカメラをまとめて掲載しています。全国の河川カメラは「全国ライブカメラ実況モニター」で県別・市町村別に見られます。川の様子は現地へ行かず、カメラで確認してください。

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まとめ
  • 10月21日夜、秋田県由利本荘市の子吉川に「レベル5 氾濫特別警報」。明法観測所で氾濫発生水位を超え、森子地区で越水が確認されたと報じられた。22日午前2時20分にレベル2「氾濫注意報」へ
  • 最大1時間雨量は矢島17.0mmで「やや強い雨」の範囲(「強い雨」の20mmに届かない)。県内37地点でも20mm以上は1地点だけ
  • それでも、雨が20時間以上降り続き、矢島136.5mm・笹子129.5mm・東由利110.5mmと流域全体に大量の雨。流域に降った水は約1.4億m³=東京ドーム約111杯分(概算)
  • 流域の雨は14時に半分、19時に9割に達し、20時すぎに氾濫特別警報。雨のピークより遅れて下流の水位が上がる
  • 「1時間の雨が弱いから大丈夫」ではない。降り始めからの合計と川の情報を見る。レベル2に下がっても川には近づかず、台風30号の動向にも注意

出典:気象庁「アメダス」(秋田県37地点の前1時間降水量・24時間降水量、2026年10月21〜22日の速報値。総雨量・平年比などは当サイトの計算)、気象庁「台風情報」(2026年10月22日15時45分発表)、気象庁「防災気象情報の改善(新しい防災気象情報)」、国土交通省 東北地方整備局 秋田河川国道事務所(子吉川の流路延長・流域面積)。平年値(1991〜2020年)と観測史上1位は気象庁の値を当サイトの地点ページから引用。報道:NHK、秋田朝日放送、時事通信、秋田魁新報(いずれも2026年10月21〜22日)。流域に降った水の量は、流域4地点の平均を流域平均雨量とみなした概算です。

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