台風の「上陸」「通過」「接近」の定義の違い|沖縄や離島が上陸にならない理由を元気象庁職員が解説

上陸・通過・接近の3パターンを示した台風経路の図 気象

「沖縄に台風が上陸」というニュースを聞いたことがありますか? 実は気象庁の統計では、沖縄への台風上陸は1951年以来ゼロです。何度直撃されても「上陸」とは数えません。

これは気象庁が「上陸」「通過」「接近」という言葉を厳密に使い分けているためです。この記事では3つの定義と、その定義のせいで起きる「え、そうなの?」という統計上の現象を、元気象庁職員の気象予報士が解説します。

のぶやん
のぶやん

ニュースで「上陸」と言えるかどうかは、気象庁のこの定義で決まります。天気キャスターが「沖縄本島を通過」と言い、「九州に上陸」と言い分けているのはこのためです。

気象庁の定義|上陸・通過・接近の違い

用語気象庁の定義(予報用語)ポイント
上陸台風の中心が北海道・本州・四国・九州の海岸に達した場合対象は4つの島だけ。沖縄・佐渡・種子島などは含まない
通過台風の中心が小さい島や小さい半島を横切って、短時間で再び海上に出る場合沖縄本島・奄美・種子島・屋久島などは「通過」
接近(日本への接近)台風の中心が北海道・本州・四国・九州のいずれかから300km以内に入ること上陸しなくても接近には数える
接近(地方への接近)台風の中心が、その地方に含まれるいずれかの気象官署等から300km以内に入ること「沖縄地方への接近」はこちらの定義。統計上は沖縄が日本一
気象庁「予報用語」より

300kmという距離は、東京からなら名古屋・仙台、大阪からなら広島・名古屋あたりまで。台風の中心がそこまで来れば、暴風域に入っていなくても「接近」です。

【ツール】都道府県の台風・風・雨の指標を切り替えて順位を確認

下のツールでは、台風の接近数・平均風速・雨の日の割合・降水量などを年間・月別に切り替えて、47都道府県の順位と偏差値を確認できます(沖縄県を黄色で強調表示)。

定義のせいで起きる「統計の不思議」5つ

① 沖縄は「台風上陸ゼロ」

沖縄県への上陸数は0回。統計開始以来ゼロです。沖縄本島は「小さい島」扱いなので、中心が真上を通っても「通過」になります。ところが接近数で見ると沖縄地方は平年7.7個で日本一(沖縄に台風が多いのはなぜ?月別の接近数と旅行を避けるべき時期)。同じ台風が、定義ひとつで「日本一」にも「ゼロ」にもなるわけです。

② 上陸ゼロの都府県が23もある

上陸は「最初に海岸線に達した地点」の都道府県に1回だけ数えます。内陸県はもちろん、海に面していても台風が最初に達しにくい位置にある県(日本海側の多くや瀬戸内海沿岸など)は上陸ゼロになります。都道府県別の上陸数と「再上陸」を含めた順位は台風の上陸数が多い都道府県・市町村ランキングにまとめました。

③ 上陸地点は「岬」に集中する

最初に海岸線に達した地点で数えるため、南に突き出た岬——室戸岬・潮岬・足摺岬・佐多岬・御前崎——が上陸地点の常連です。市町村別の上陸数1位は高知県室戸市(室戸岬)の10回。

④ 一度海に出てまた上陸すると「再上陸」

たとえば四国に上陸した台風が瀬戸内海に出て、山口県や兵庫県に再び達すると「再上陸」です。統計上の上陸数は最初の1回だけですが、再上陸を含めると順位が変わります(兵庫県の再上陸17回、山口県15回など)。

⑤ 熱帯低気圧や温帯低気圧に変わってから来ると「上陸」ではない

台風が日本の直前で熱帯低気圧(最大風速17.2m/s未満)に弱まったり、温帯低気圧に変わったりしてから海岸線に達した場合は、上陸には数えません。「台風が来なかった年」でも、元台風の低気圧で大雨になることは珍しくありません。

のぶやん
のぶやん

「上陸」の数だけで台風の危険度を測ると見誤ります。2015年の台風21号は与那国島で81.1m/sの記録的な暴風を観測しましたが、統計上は「通過」です。

北海道への上陸が少ない理由

北海道への上陸は7回。大きな島なので定義上は上陸できますが、たどり着く前に温帯低気圧に変わることが多いためです。ただし2016年8月には台風7号・11号・9号が相次いで上陸し、統計史上初めて台風10号が東北の太平洋側(岩手県)に上陸するという異例の年もありました。詳しくは北海道に台風が来ないのはなぜ?で解説しています。

「接近」はどれくらい多いのか

日本への接近数は平年11.7個、上陸は3.0個。接近した台風のうち上陸するのは4分の1です。上陸ゼロだった2020年も接近は7個ありました。地方別では沖縄が飛び抜けて多く、北海道が最少です。

順位地方合計(1951〜2025年)年平均平年値
1沖縄553個7.4個7.7個
2伊豆・小笠原401個5.3個5.4個
3奄美300個4.0個4.3個
4九州南部279個3.7個3.9個
5九州北部257個3.4個3.8個
6東海248個3.3個3.5個
7四国244個3.3個3.3個
8関東甲信238個3.2個3.3個
9近畿235個3.1個3.4個
10中国213個2.8個3個
11東北192個2.6個2.7個
12北陸186個2.5個2.8個
13北海道119個1.6個1.9個
地方別の台風接近数(気象庁・75年間)

市町村ごとの接近回数は台風の接近数ランキング【75年分・年代別】、年別の多い年・少ない年は台風の当たり年・少ない年ランキング(1951年〜)をご覧ください。

ニュースでの使い分け方

  • 「台風〇号が沖縄本島を通過しました」→ 沖縄は上陸の対象外
  • 「台風〇号が鹿児島県に上陸しました」→ 九州の海岸線に中心が達した
  • 再上陸しました」→ 一度海に出てまた達した
  • 上陸のおそれ」→ 予報円が4島の海岸線にかかっている
  • 接近」→ 300km以内。暴風域に入るかどうかは別の話

台風がどこにいて、どちら側の風が強いかは台風の雨風は右側が強くて左側が弱いって本当?、進路予報の見方は台風の予報円がだんだん大きくなるのはなぜ?が参考になります。

都道府県ランキングで見る「上陸しない県」の台風リスク

上陸が定義上ゼロになる沖縄県が、接近数・風速・雨ではどの位置にあるかを確認します。「上陸ゼロ」と「影響ゼロ」がまったく違うことが分かります。

台風の接近数の多さ:沖縄は1位

順位都道府県台風の接近数偏差値
1位沖縄県7.7回107.3
2位宮崎県3.9回57.4
3位鹿児島県3.9回57.4
4位山口県3.8回56.1
5位福岡県3.8回56.1
6位佐賀県3.8回56.1
7位長崎県3.8回56.1
8位熊本県3.8回56.1
9位大分県3.8回56.1
10位岐阜県3.5回52.1
台風の接近数の多さランキング(年平均接近数)

沖縄県は1位(7.7回、偏差値107.3)。1位は沖縄県(7.7回)、47位は北海道(1.9回)、全国平均は3.3回です。比較:鹿児島3位・高知32位・東京25位・北海47位。詳しくは台風の接近数ランキングあなたの市町村には年何個来る?気象庁データをご覧ください。

平均風速の強さ:沖縄は1位

順位都道府県平均風速偏差値
1位沖縄県5.3m/s83.3
2位秋田県4.3m/s69.3
3位石川県4.0m/s65.1
4位千葉県3.9m/s63.7
5位和歌山県3.8m/s62.3
6位青森県3.7m/s60.9
7位北海道3.6m/s59.5
8位三重県3.6m/s59.5
9位兵庫県3.6m/s59.5
10位広島県3.6m/s59.5
平均風速の強さランキング(平年値)

沖縄県は1位(5.3m/s、偏差値83.3)。1位は沖縄県(5.3m/s)、47位は山形県(1.7m/s)、全国平均は2.9m/sです。比較:鹿児島14位・高知46位・東京26位・北海7位。詳しくは平均風速ランキングをご覧ください。

9月の雨の日の多さ:沖縄は17位

順位都道府県雨の日の割合(9月)偏差値
1位栃木県39.5%66.4
2位富山県39.1%65.4
3位宮崎県39.0%65.1
4位千葉県38.8%64.6
5位秋田県38.4%63.5
6位石川県38.3%63.3
7位高知県38.2%63.0
8位群馬県37.7%61.7
9位鳥取県37.7%61.7
10位埼玉県36.9%59.6
17位沖縄県35.2%55.1
9月の雨の日の多さランキング(約60年の天気出現率)

沖縄県は17位(35.2%、偏差値55.1)。1位は栃木県(39.5%)、47位は岡山県(26.2%)、全国平均は33.2%です。比較:鹿児島30位・高知7位・東京18位・北海35位。詳しくは雨の日が多い都道府県ランキング(年間・月別)をご覧ください。

年降水量の多さ:沖縄は8位

順位都道府県年降水量偏差値
1位高知県2,666mm73.8
2位宮崎県2,626mm72.9
3位鹿児島県2,435mm68.4
4位石川県2,402mm67.6
5位富山県2,374mm66.9
6位静岡県2,327mm65.8
7位福井県2,300mm65.2
8位沖縄県2,161mm61.9
9位熊本県2,007mm58.3
10位佐賀県1,951mm56.9
年降水量の多さランキング(平年値)

沖縄県は8位(2,161mm、偏差値61.9)。1位は高知県(2,666mm)、47位は長野県(965mm)、全国平均は1,657mmです。比較:鹿児島3位・高知1位・東京24位・北海45位。詳しくは降水量が多い都道府県・市町村ランキングをご覧ください。

よくある質問

Q. なぜ沖縄は上陸にならない?

気象庁の「上陸」は北海道・本州・四国・九州の海岸線に中心が達した場合に限られ、沖縄や離島は「通過」と表現されます。沖縄本島を台風の中心が通っても統計上は上陸ゼロです。

Q. 接近の「300km」はどこから測る?

各地の気象官署(那覇・鹿児島など)から台風の中心までの距離です。300km以内に入れば「接近」で、暴風域に入っていなくても数えられます。

Q. 再上陸とは?

一度上陸した台風が海に出て別の島に再び上陸することです。九州→四国→本州と3回上陸する台風もあり、統計では上陸1回として数えるものと再上陸を含めるものがあります。

Q. 「直撃」は気象用語?

気象庁の用語ではありません。報道などで中心が通過することを指す慣用表現で、統計には使われません。

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まとめ
  • 上陸=中心が北海道・本州・四国・九州の海岸に達すること。沖縄や離島は対象外
  • 通過=小さい島や半島を横切って短時間で海上に出ること
  • 接近=中心が300km以内に入ること。上陸の約4倍の頻度
  • 定義のため、沖縄は「接近日本一」なのに「上陸ゼロ」。上陸ゼロの都府県は23
  • 上陸の数だけで危険度は測れない。「通過」の台風のほうが強いことも多い

出典:気象庁「台風の統計資料」(発生数・接近数・上陸数、1951年〜)、気象庁「予報用語」。記事内の数値は気象庁の年間確定値にあわせて自動更新しています(最終更新:2026年9月2日、確定年:2025年)。

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