「世界でいちばん寒い記録を持っている国はどこ?」——最高気温に続いて、今回は反対側の極限、観測史上「最低気温」の国別ランキングです。
WMO(世界気象機関)の世界気象極値アーカイブと各国気象機関の公的データをもとに、国連加盟193か国+南極・グリーンランドの「観測史上最低気温」を調査し、記録を確認できた111件をランキングにしました。信頼できる公的記録を確認できなかった84か国は「データなし」としてツール末尾に掲載しています。地域別・記録が生まれた年代別に切り替えられるツール付きです。
世界一はなんと−89.2℃。冷凍庫(約−18℃)どころか、ドライアイス(−79℃)より冷たい世界です。
「日本の歴代最低−41.0℃(1902年・旭川)は世界と比べるとどのレベル?」「なぜ寒さの記録は最近ほとんど更新されないの?」——そんな疑問にも答えていきますよ。

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世界の国別最低気温ランキング【地域別・年代別】
それでは早速ランキングです。ボタンで「地域」と「記録が生まれた年代」を絞り込めます。偏差値は記録を確認できた111件の中での「寒さの位置づけ」(低いほど高偏差値)を表しています。
※印の付いた記録について:観測点の性格(自動観測・山間の特殊地形など)や、より低い非公式記録の存在といった注記があるものです。詳しくは本文で解説します。
調査方法について:主要国の値はWMO・各国気象機関の発表を個別に確認し、それ以外の国は各国気象機関の記録を集約した気象記録データベース(英語版Wikipedia「List of weather records」ほか)で照合しました。国連加盟193か国のうち信頼できる公的記録を確認できなかった84か国は「データなし」としています。
世界最低気温TOP10を考察|−89.2℃の世界一は南極ボストーク基地
堂々の世界一は、南極のボストーク基地で1983年7月21日に観測された−89.2℃。WMO公認の世界最低気温です。
標高約3,500mの氷床上にあり、極夜の放射冷却が極限まで進むとこの温度に達します。なお、人工衛星の観測では氷床上で−98℃前後と推定された例もありますが、これは通常の気象観測とは別枠の参考値です。
「国」としての1位は、グリーンランド(デンマーク自治領)のクリンク自動観測点で1991年12月22日に記録された−69.6℃。
実はこのデータ、観測から約30年後にアーカイブの中から「発掘」され、2020年にWMOが北半球の最低気温として正式認定したという珍しい経歴の持ち主です。
続くのがロシア・シベリアのベルホヤンスクで1892年に観測された−67.8℃。
近くのオイミャコンでも1933年に−67.7℃を記録しており、この2つの村は「人が定住する場所としては世界最寒」の座を争い続けています。ちなみにベルホヤンスクは2020年6月に38.0℃(WMO認定の北極圏最高気温)も記録していて、気温差105.8℃という強烈な二刀流です。
4位カナダ(−63.0℃・1947年スナッグ)、5位アメリカ(−62.2℃・1971年アラスカ)と北米勢が続き、6位には2023年1月に−53.0℃を出したばかりの中国・漠河が入ります。
TOP10の顔ぶれを見ると、高緯度の大陸内陸部か、標高の高い氷床・盆地に集中しています。海から遠く、乾いて、雪に覆われ、夜が長い——寒さの記録にも「必須条件」があるんですね。
地域別に見る最低気温|シベリア・北米・北欧の三つ巴
アジア:シベリアの−67.8℃と、日本の−41.0℃
アジアの横綱はロシア・シベリア勢。そして2023年1月には中国最北端の漠河が−53.0℃を観測し、54年ぶりに国の記録を塗り替えました。
そして日本の歴代最低は1902年(明治35年)1月25日に旭川で観測された−41.0℃です。
上川盆地に冷気が溜まり、雪面からの放射冷却が極限まで進んだ結果で、今回の111件中では28位・偏差値57.6。熱帯の国々も含めた世界全体で見ると、日本は実はかなりの「寒さの強豪国」なんです。ちなみにこの記録が出た1902年1月は、あの八甲田山雪中行軍遭難事件が起きた月でもあります。
ヨーロッパ:北欧勢と「小さなシベリア」たち
ヨーロッパの上位はスウェーデン(−52.6℃)、フィンランド(−51.5℃)、ノルウェー(−51.4℃)の北欧勢。いずれも北極圏に近いラップランドの内陸で生まれた記録です。
面白いのは中欧・東欧勢で、チェコ・スロバキア・ポーランド・エストニア・ウクライナなどの記録が1929年・1935年・1940年・1942年に集中しています。
戦前ヨーロッパを襲った歴史的な大寒波の爪痕が、そのまま各国の「歴代1位」として残っているんです。またスイスのラ・ブレヴィーヌ(−41.8℃)は「スイスのシベリア」の異名を持つ盆地の村で、旭川と同じ放射冷却型の記録です。
北米:ユーコンの−63.0℃とアラスカの−62.2℃
カナダの記録はユーコン準州の小さな集落スナッグで1947年に観測された−63.0℃。
北米大陸の内陸高緯度は、シベリアに次ぐ寒気の製造工場です。アメリカの−62.2℃もアラスカ内陸(プロスペクトクリーク)で、本土48州に限ってもモンタナ州で−56.7℃の記録があります。
南半球:意外と「寒くない」南米・アフリカ・オセアニア
南米の最低はアルゼンチン・サルミエントの−32.8℃(1907年、WMO公認の南米最低気温)。
アフリカはモロッコ・イフレンの−23.9℃(1935年、WMO公認)、オーストラリアは−23.0℃、ブラジルにいたっては−14.0℃です。
南半球が「ぬるい」のは、緯度の高い場所のほとんどが海だから。大陸の内陸で冷気が育つ場所が南極以外にほぼ無いんです。逆に言えば、その南極が−89.2℃という別次元の記録で南半球の名誉を一手に引き受けています。
ちなみに今回193か国に対象を広げたことで判明した「最下位」は、赤道直下の島国ナウルの20.0℃。観測史上いちばん寒い日でも20℃という、寒さと無縁の国もあるんですね。
年代別に見る|寒さの記録は「更新されない時代」に入った
ランキングツールを年代別に切り替えると、最高気温ランキングとは真逆の光景が見えてきます。
111件中、2000年以降に生まれた記録は20件。
しかも寒さの本場である上位30位以内に限れば、2000年以降はわずか2件(南アフリカ2013年・中国2023年など)。寒冷地の記録は19世紀〜20世紀前半のものがゴロゴロしています。
- 19世紀の記録:ノルウェー1886年、ロシア1892年、イギリス1895年
- 20世紀前半:日本1902年、ニュージーランド1903年、アルゼンチン1907年、アイスランド1918年、チェコ・スロバキア・ドイツ1929年、モロッコ・ウクライナ1935年、エストニア・ポーランド・ハンガリー1940年、ルーマニア1942年、カナダ1947年など
- 2000年以降:20件(南アフリカ2013年、中国2023年など。多くは記録の浅い熱帯の国)
最高気温ランキングでは記録の半数以上が2010年以降に生まれていたのに対し、最低気温は正反対。
温暖化が進む地球では、暑さの記録は出やすく、寒さの記録は出にくい——2つのランキングを並べると、その非対称がくっきり浮かび上がります。
もうひとつの要因は観測環境の変化です。都市化が進むと放射冷却が弱まり、極端な低温は出にくくなります。旭川の−41.0℃が120年以上破られていないのは、温暖化と都市化のダブル効果といえます。
なぜ−50℃を下回れるのか?気象予報士的に解説
−50℃を下回る記録が出た場所には、共通点が4つあります。
- 高緯度の大陸内陸であること:海は冷えにくく凍っても熱を運ぶため、海から遠いほど際限なく冷えます。
- 雪や氷に覆われていること:雪面は太陽光をはね返し、しかも赤外線をよく放射するので、冷却が加速します。
- 盆地・窪地であること:冷たい空気は重く、低いところに溜まります。オイミャコンも旭川もラ・ブレヴィーヌも盆地です。
- 夜が長い(極夜)であること:太陽が昇らなければ、放射冷却は何日でも続きます。ボストーク基地の−89.2℃は真冬の極夜のさなかに生まれました。
日本で−41.0℃が出たのも、雪に覆われた上川盆地で、よく晴れた冬の夜に放射冷却が極まった結果。条件のそろい方はシベリアのミニチュア版なんです。
「発掘された記録」と非公式記録の話
グリーンランドの−69.6℃は、1991年の自動観測データが約30年後に見直しの中で発見され、2020年にWMOが北半球記録として認定したものです。気温の歴代記録は「観測した瞬間に決まる」ものではなく、後から科学的な検証を経て初めて公式になる、という好例ですね。
一方で、公式記録より低い「非公式記録」もあちこちに存在します。ドイツの山間の窪地フンテン湖では−45.9℃(公式記録は−37.8℃)、ブラジルでは−17.8℃(公式は−14.0℃)などが観測されていますが、観測方法がWMOの基準を満たさないため参考値扱いです。本ランキングは原則として各国気象機関の公式値を採用し、こうした非公式値は注記にとどめました。
まとめ|寒さの記録は歴史の遺産になりつつある
今回の内容についてまとめました。
- 世界一は南極・ボストーク基地の−89.2℃(1983年、WMO認定)
- 国・地域の1位はグリーンランドの−69.6℃(1991年観測、2020年にWMOが北半球記録と認定)
- 定住地の世界最寒はロシアのベルホヤンスク/オイミャコン(−67.8℃/−67.7℃)
- 111件のうち、寒さの本場・上位30位以内で2000年以降に生まれた記録はわずか2件。温暖化時代、寒さの記録は更新されにくい
- 日本の歴代最低は−41.0℃(1902年・旭川)。世界111件の中で28位・偏差値57.6の「寒さの強豪国」
暑さの記録が毎年のように塗り替えられる一方で、寒さの記録は静かに歴史の遺産になりつつあります。この対比こそ、気候変動のいちばん分かりやすい「証拠」なのかもしれません。
姉妹編の「世界の国別最高気温ランキング」、そして日本国内の暑さランキングもあわせてどうぞ。
世界の国別最高気温ランキング【観測史上】地域別・年代別に比較

引用・出典(公的データ・一次情報)
本記事のランキングは、以下の公的機関・一次情報をもとに作成しています。国別の値は各国気象機関の公表値に基づきます。
- WMO World Weather & Climate Extremes Archive(世界気象極値アーカイブ):世界・大陸別の公認最低気温(南極−89.2℃、南米−32.8℃、アフリカ−23.9℃など)
- WMO報道発表(2020年):グリーンランド−69.6℃を北半球最低気温として認定
- 気象庁「歴代全国ランキング」:日本の観測史上最低気温(−41.0℃・旭川)
- China Daily(2023年1月):中国・漠河の−53.0℃(中国気象局)
- The Watchers(2023年1月):漠河−53.0℃の詳報
- List of weather records(英語版Wikipedia):個別に確認した国以外の値の照合に使用(各値の一次出典である各国気象機関は同ページの脚注に記載)
- NOAA NCEI(米国立環境情報センター):気候データの補助的照合
- その他各国の値:各国気象機関(ECCC・NOAA・SMHI・FMI・ノルウェー気象研究所・MGM・CHMI・MeteoSwiss・DWD・メテオ・フランス・Met Office・KMA・DMI・NIWA・BOM・SAWS・INMET ほか)の公表値
※古い年代の記録には当時の観測環境に由来する不確かさがあるもの、非公式のより低い観測値が存在するものが含まれます。各記録の注記(※印)もあわせてご覧ください。


